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第12回大使レター

平成27年8月14日

夏休みシーズンも終盤にさしかかっておりますが、皆様お元気でお過ごしのことと存じます。 本題に入る前に、二つの朗報です。先ず、7月に日本ポーランド・ワーキング・ホリデー協定が発効し,両国の若者が相手国に滞在して仕事をしながら休暇を経験することのできる制度が開始したことです。もう一つは、ポーランド航空LOTが来年1月からワルシャワ-東京間に待望の直行便を運行する運びとなったことです。このようにして、二国間の交流が一層発展し、戦略的パートナーシップの裾野が更に広がることは喜ばしい限りです。

さて,8月は、日本国民にとってはあの不幸な戦争を振り返り、祈りと思索のときでもあります。広島と長崎への原爆投下、そして敗戦。特に、本年は第二次世界大戦後70周年にあたります。安倍総理は,8月14日に戦後70周年に際して総理大臣談話を発表しました。今回の大使レターでは,同談話のポイントに触れつつ,我が国の歴史認識と平和国家としての歩みについて説明します。この関連で、我が国国会で審議中の平和安全法制についても紹介します。


安倍総理大臣談話

安倍総理が8月14日に発表した談話の主要ポイントは、次のとおりです(全文英訳、ポーランド語訳は当館ウェブサイトhttp://www.pl.emb-japan.go.jp/index_j.htmに掲載)。

我が国は、かつての植民地支配と侵略によって多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えたことに対する痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを常に心に刻んできました。そして、不幸な歴史を二度と繰り返さないとの決意を、1995年(戦後50周年)及び2005年(戦後60周年)の内閣総理大臣談話(注1及び注2)で表明してきました。同時に、韓国や中国をはじめとする国々・国民に対しても、これまで様々な機会をとらえて反省と謝罪の気持ちを真摯に伝えてきました(注3及び注4)。「日本は謝っていない」という風説がありますが、これは事実に反します。

事実、我が国の戦後70年の歩みを振り返れば、その歴史認識と平和を希求する決意がどのように具現化したか明らかになります。即ち、日本は、戦後一貫して平和国家に徹し、民主主義、人権、法の支配を信奉してきました。如何なる国にも脅威を与えず、自ら経済発展を遂げて途上国を積極的に支援する主要な援助国になりました。国連PKOなど大きな国際的役割も果たしつつあります。日本は、平和と経済発展による国家の繁栄モデルを提供してきたとも言えるでしょう。

安倍総理は,今回の談話において、我が国歴代内閣が一貫して堅持してきたこのような立場を今後とも揺るぎないものであると宣明にしました。その上で、同盟国や友好国など国際社会と一緒に未来に向けた協力関係を更に発展させる決意を表明しています。換言すれば、日本が過去にきっちりと向き合うと同時に、未来志向で一層平和の道を進んで行こうとの決意を宣言するものとなっています。次に説明する平和安全法制もこのような決意の具体的表れです。安倍総理のいう「積極的平和主義」を実行に移すものです。一部に、「歴史修正主義」、「軍国主義の復活」などとの批判が見受けられますが,今回の談話や平和安全法制の中身を見れば、これらの指摘が全く当たらないことは明白です。


平和安全法制

平和安全法制は,自衛隊法など法律改正10本と新法1本によって構成されるものです。既に衆議院で可決され,現在,参議院での審議が進められています。同法制は,昨年7月1日の閣議決定に基づき透明性をもって整備されたもので、同月の大使レターでも紹介したところです。我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増し,如何なる国も一国のみで平和を守ることはできない状況にあります。これはウクライナ情勢に対峙するポーランドにおいても同様でありましょう。「力による現状変更」の試みは残念ながら洋の東西を問わず見られるのです。テロ、サイバー攻撃、大量破壊兵器拡散などのグローバルな課題に加え、東アジアでは、北朝鮮の核兵器・ミサイル開発,中国の海洋進出や不透明な軍拡などの課題に直面しています。このような中で、日本として自国の主権と国民の命を守り,国際社会の平和と安定により一層貢献することを目的として、この法制が整備されました。同法制が成立すると,我が国が直面する安全保障上の課題に対応するとともに、日米同盟の抑止力を一層強化することとなります。この法制の主要なポイントは次のとおりです。

平和安全法制の目的は、我が国及び国際社会の平和と安全のための切れ目のない体制を整備することです。この法制は,同盟国たる米国はもとより、EU首脳(トゥスク欧州理事会議長及びユンカー欧州委員会委員長)のほか、英国、フランス、ドイツ、イタリアを含む欧州諸国から支持されています。また、フィリピン,ベトナム等の東南アジア諸国や豪州等からも幅広い支持・歓迎が表明されています。同法案を巡り「日本が再び戦争することを可能にするもの」とか「日本が平和主義と訣別したもの」等の無責任なレッテル貼りが一部に行われていますが,いずれも全く根拠はありません。安倍総理も述べているとおり、日本国憲法の掲げる平和主義や戦争放棄の原則は不変です。我が国は戦後70周年総理談話でも宣明にされているとおり,引き続き力強く平和国家としての歩みを続けていきます。


駐ポーランド日本国大使
山中 誠





(注1)村山総理大臣談話(1995年8月15日)

「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。」


(注2)小泉総理大臣談話(2005年8月15日)

「我が国は、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。こうした歴史の事実を謙虚に受け止め、改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明するとともに、先の大戦における内外のすべての犠牲者に謹んで哀悼の意を表します。悲惨な戦争の教訓を風化させず、二度と戦火を交えることなく世界の平和と繁栄に貢献していく決意です。」


(注3)日韓共同宣言(1998年10月)の歴史関連部分

「小渕総理大臣は、今世紀の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べた。金大中大統領は、かかる小渕総理大臣の歴史認識の表明を真摯に受けとめ、これを評価すると同時に、両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力することが時代の要請である旨表明した。」


(注4)日中共同宣言(1998年11月)及び日中共同プレス発表(2006年10月)の歴史関連部分

「双方は、過去を直視し歴史を正しく認識することが、日中関係を発展させる重要な基礎であると考える。日本側は、1972年の日中共同声明及び1995年8月15日の内閣総理大臣談話を遵守し、過去の一時期の中国への侵略によって中国国民に多大な災難と損害を与えた責任を痛感し、これに対し深い反省を表明した。」(日中共同宣言,1998年11月)

「日本側は、戦後60年余、一貫して平和国家として歩んできたこと、そして引き続き平和国家として歩み続けていくことを強調した。中国側は、これを積極的に評価した。」(日中共同プレス発表,2006年10月)