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第9回大使レター

平成26年7月16日

拝啓

7月1日,日本政府は,新たな憲法解釈を含む安全保障法制整備の基本方針について閣議決定を行いました。日本の平和と安全を確保するとともに、「積極的平和主義」の理念にもとづき日本が国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に寄与するためのものです。  今回の大使レターでは,この閣議決定の内容について紹介します。


閣議決定の概要

我が国を取り巻く安全保障環境は大きく変化しつつあります。大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発・拡散,サイバー攻撃や国際テロ等,国境を越える新たな脅威が増大しています。もはや如何なる国も一国のみで平和を守ることはできません。こうした変化に対応して、日本がこれまで憲法上できないとされてきた具体的事例(米艦防護、弾道ミサイル迎撃、船舶検査、機雷掃海など)にも即しつつ、検討を進めた結果が今回の閣議決定です。そのポイントは、次の三点です。


  1. 自衛の措置として「武力の行使」が許容されるのは、我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られるとされてきた従来の憲法解釈を変更して、厳格な三要件(注)の下で、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合も含むべきものとの判断に至りました。その結果、例えば、海外の紛争から避難する邦人を救助した米国輸送船が日本近海で攻撃を受けた場合に自衛隊がこの米国船を防護できるようになります。憲法上許容されるこのような武力行使は、国際法上は集団的自衛権が根拠となる場合があります。
  2. 平時でも有事でもない、武力攻撃に至らない侵害に対して、切れ目なく対処できるよう、自衛隊の行動に関する手続きの迅速化、一層の日米連携の促進などにつき検討を進めることにしました。
  3. 国際的な平和協力活動などにこれまで以上に積極的に参加できるよう、一層の後方支援や他国のPKO部隊を助ける「駆け付け警護」などの活動ができるように検討を進めることにしました。

(注)自衛の措置としての武力の行使の新三要件


閣議決定の評価

今般の閣議決定を含む日本の安全保障政策(1月の大使レターで紹介した「積極的平和主義」に基づく安全保障政策)は,地域・国際社会の平和と安定に寄与するものであります。今回の閣議決定に関しては,同盟国たる米国はもとより、最近首脳会談が行われた豪州、ニュージーランドなどからも歓迎と支持の表明がありました。もとより、我が国の「積極的平和主義」についても、米国,欧州,アジアの多くの国々から理解と支持を得ています。

今回の閣議決定に関し,日本が再び戦争の準備をしている、日本が平和主義と訣別したといった批判が一部に聞かれますが、そのようなことは一切ありません。日本国憲法の掲げる平和主義や戦争放棄の基本原則は不変です。日本を取り巻く安全保障環境がますます厳しくなる中で、他国に対する武力攻撃が日本の存立を脅かすことも起こりえます。このような場合に限っては、自衛のための措置として必要最小限の武力の行使が憲法上許されると判断したものです。 安倍総理も、「日本が再び戦争をする国になるというようなことは断じてあり得ない。(中略)憲法が掲げる平和主義、これからも守り抜いていきます。」と明確に述べています。戦後70年に及ぶ平和国家としての日本の歩みは、今後ともぶれることはありません。むしろ、その歩みを更に力強いものとするのが今回の閣議決定です。

また、憲法改正ではなく,閣議決定による憲法解釈の変更を行うことを疑問視する向きがあります。しかし、今回の閣議決定は、国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るために必要最小限の自衛の措置をとるという憲法の基本的考え方を、何ら変えるものではありません。また、集団的自衛権は国連憲章にも定められた権利で、国際法上も主権国家に認められたものです。よって、必ずしも憲法改正を要するものではありません。

今後の予定

今回の閣議決定で打ち出された基本方針に基づき、今後国内法の作成作業が開始されます。当然のことながら、これは民主的プロセス従い、国会の審議を通じて十分な透明性をもって行われます。このように関連国内法令が整備されてはじめて、具体的な措置が実施できるようになるのです。(なお、憲法上「武力の行使」が許されるとしても、民主的統制が確保されることは当然であり、自衛隊に出動を命ずるに際しては、これまでと同様、原則として事前に国会の承認を求めることを法案に明記する方針が予め示されています。)

日本としては,今後とも関係国の理解を十分に得ることが重要と考えており,引き続き、安全保障法制の整備を含め透明性を維持しつつ、丁寧に説明していくつもりです。

日本やポーランドを取り巻く安全保障環境は厳しさを増しております。最近の東アジアやウクライナ・クリミアに見られる「力を背景とした現状変更」の試みも懸念されます。日本は、今回の閣議決定や積極的平和主義に基づき、今後とも抑止力を高め、世界の平和と安定のためにより積極的な役割を果たしていく所存です。その際、自由、民主主義、人権、法の支配といった価値感を共有し、同じく米国と同盟関係にあるポーランドとの連携を重視して行きたいと考えています。今後とも両国間の安全保障に関する対話と協力を深めていくことを期待しつつ、今回のレターを締めくくります。


敬具