在ポーランド日本商工会及びポーランド情報・外国投資庁(PAIiIZ)共催セミナーの概要
日時:平成24年10月29日(月)11:15~
場所:PAIiIZ会議場
【目次】
(1)マイマンPAIiIZ総裁
(2)大石商工会長
(3)山中大使挨拶
(ポーランド側)
- アントニシュン-クリク経済省次官(Ms.Ilona Antoniszyn-Klik)
- ヤンコヴィアク(Mr.Janusz Jankowiak)ポーランドビジネス協議会チーフ・エコノミスト
(商工会側)
- 尾崎Managing Director,ブリヂストン・スタルガルド社(Bridgestone Stargard Sp.z o.o.)マネージング・ダイレクター
- 金子デロイト社(Deloitte Doradztwo podatkowe Sp z o.o.)日本デスク・シニアマネージャー
(ポーランド側)
- ボサック(Prof. Jan Bossak)ポーランド日本経済委員会副委員長
- ウィジュヴァ(Mr.Marek Łyżwa)PAIiIZ理事
(商工会側)
- 神原NSKヨーロッパ社ワルシャワ連絡事務所(NSK Europe Ltd. Warsaw Liaison Office)GM
- 岡田・伊藤忠商事社ポーランド支店(ITOCHU CORPORATION (Spółka Akcyjna) Oddzał w Polsce)GM
- 志牟田ジェトロ・ワルシャワ事務所長
(1)マイマンPAIiIZ総裁
(2)大石商工会長
(1)マイマンPAIiIZ総裁
- ポーランドは,金額面で欧州第4位の直接投資誘致国である。ポーランドは米国,中国に次ぐ世界第3位の製造業の投資先と見なされており,UNCTADによれば,ポーランドは世界第6位の投資適国で,Ernst&Young社によれば欧州ではドイツに次ぐ第2位の投資先と評価されている。
- 日本は,米国に次ぐ世界第2位,また,アジア最大の対ポーランド直接投資国である。日本からの直接投資は15億ドルに達し,2011年にはPAIiIZは6件の日系企業の投資案件を完了し,900人の新規雇用を創出した。日本からの直接投資のおかげで,ポーランドは欧州における最大の自動車部品生産国及びテレビ輸出国となった。
- 日本からの直接投資は減少傾向にあるが,一時的なものであると願っている。多くの日系企業がポーランドに進出する一方,撤退も多いと感じている。
- 海外直接投資を検討している日本企業は過去10年で最高に上るとのことであり,多くの企業がポーランドを投資先として選択することを期待している。
大石商工会長
- ポーランドは生産基地と消費市場という両面を持ち合わせている中東欧の雄である。日系進出企業数は300社近くとなり,その内,製造業は100社近くを占め,約4万人の雇用を創出している。
- SEZに係る法律の改正及び期間の延長に関する議論が進んでいることもあり,在ポーランド日本商工会は,大使館及びジェトロの協力の下,ポーランドの事業環境の評価及び経済特別区に関するアンケート調査を行った。投資先を決定する際に大きく影響を与える要件として,①インセンティブの有無,②生活環境,③ロジステックスを含む交通インフラ等が挙げられる。
- 今回の調査により明らかになった課題と提言を共有の上,その課題の解決に向けてお互いに何をすべきかを考えて行いきたい。相互理解の上での課題の解決により,日系企業の投資機会の可能性は益々高まり,ひいてはポーランド経済の発展に貢献できるのではないか。
(3)山中大使挨拶 (全文はこちら)
- 日系企業による投資,ビジネスがポーランドの経済発展に貢献し,同時に日系企業もポーランドを拠点としてその事業を拡大したように,日本企業とポーランド経済は,手を携えて,シナジー効果を発揮しながら発展してきた。
- しかし,未曾有の円高,ユーロ圏の債務危機,エネルギー・環境問題,新興国経済の減速といった厳しい挑戦に直面する中,これまでの日本とポーランドの二人三脚による発展を維持・進化させていくには,双方向の活発な対話を基礎とした,不断の改善努力が相互に必要な状況。日EU・EPAの早期の交渉開始と締結もその一つ。
- 当館も協力して行った日系企業に対する事業環境調査の結果,ポーランドの投資環境の良さが再確認されるとともに,インフラ整備など一層の改善が求められる事項も明らかになった。この調査をきっかけにして,両国関係者の対話が一層活発に行われ,事業環境が更に改善すること,そして,日系企業の投資も更に拡大すること,そのような相乗効果を期待している。また,このような調査と対話の機会が今後とも繰り返し設けられることを願っている。
今回のセミナーでは,商工会と当館,ジェトロが協力して商工会会員企業を対象に実施した「ポーランドの事業環境の評価及び経済特別区に関するアンケート調査」の結果概要を,ジェトロ・ワルシャワ事務所の志牟田所長が代表して紹介しました。
説明資料はこちら
「在ポーランド日本商工会会員企業へのポーランド事業環境の評価及び経済特別区に関するアンケート調査報告書」はこちら
(1)パネリスト
(ポーランド側)
- アントニシュン-クリク経済省次官(Ms.Ilona Antoniszyn-Klik)
- ヤンコヴィアク(Mr.Janusz Jankowiak)ポーランドビジネス協議会チーフ・エコノミスト
(商工会側)
- 尾崎Managing Director,ブリヂストン・スタルガルド社(Bridgestone Stargard Sp.z o.o.)マネージング・ダイレクター
- 金子デロイト社(Deloitte Doradztwo podatkowe Sp z o.o.)日本デスク・シニアマネージャー
(2)アントニシュン-クリク ポーランド経済省次官
- 不況の時こそ投資を支援すべきであり,ポーランド経済省は他省庁がSEZ法の改正に協力することを期待している。他国が強力な投資誘致策を提供している以上,投資誘致競争に勝つにはポーランドも支援を継続する必要がある。
- SEZの管理会社は,トレーニングや採用イベントの開催,政府支援を活用したSEZにおけるインターンシップ,労働者の通勤手段の確保,SEZの新規進出企業に対する支援提供など,多くの役割が期待されている。
- 経済省はまた,特に建築法などで,投資プロセスの円滑化のための規則改正を検討している。投資プロセスをより円滑に進めることができるよう,電力会社やガス会社との対話も継続している。
- 日本企業の提案の多くは妥当で現実的なものであるが,公共交通や道路網の整備など,問題解決に向け既に多くのことが実行されている。1年後に再び達成状況について報告する機会を設けていただきたい。
(3)尾崎ブリヂストン・スタルガルド社(Bridgestone Stargard Sp.z o.o.)マネージング・ダイレクター
- ポーランドに進出したことに対し90%程度は満足している。その理由として,①地理的優位性と交通インフラ,②人材,③政府補助・投資インセンティブの3点が挙げられる。
- 地理的優位性については,欧州の大消費地・最大市場であるドイツと高速道路で繋がっており,物流面で優位性があることが魅力である。また,投資プロジェクトのスケジュールに合致するタイミングでバイパス道路を完成いただいた中央・地方政府の尽力に感謝している。進出先のスタルガルドは,バルト海に通じるシチェチン港から距離が近く,アジアから輸入する天然ゴム等の原材料のアクセス・ポイントとして利便性が高い。
- 人材面に関し,英語力を有する若く優秀な労働力を確保することが出来ている。従業員は真面目,勤勉であり,エンジニアを除いて定着率も安定している。課題としては,技術系エンジニアの人材が不足しており,退社率も高いことである。必要要件を持った人材を確保できなかった為エンジニアを育ててきたが,「育成すればすぐに退社」が繰り返されていることが懸念である。ポーランド経済が伸長する中ますます技術者が不足することが懸念されており,技術者を育てる施策の検討もお願いしたい。
- 政府補助・投資インセンティブについて,欧州周辺では投資先国として比較的競争力のあるポーランドだが,世界レベルで見ると優位性は薄れる。ブリヂストン社内では,アジアの国々の工場等が目下スタルガルド工場の強力なライバルとなっている。そのような中,ポーランドにおいてSEZのインセンティブが本社での投資決定の判断に大きく影響していることは事実である。他のグローバル企業においても同様と思われる。SEZの存続期間延長などは企業の投資決定に対して非常に有効な方策だと考える。
- また,SEZ進出企業に対して課せられている責務事項(投資額,雇用者数)の緩和を要望したい。スタルガルド工場ではトラック・バス用のタイヤを生産しているが,経済活動における物流量の影響を直接受け,非常に景気に左右されやすい。現在の厳しい責務事項が投資決定の足かせになっている。先行き不透明で景気動向が不安定な現在,柔軟な企業運営を促す為にも責務事項の緩和を望む。
(4)金子デロイト社(Deloitte Doradztwo Podatkowe Sp z o.o.)日本デスク・シニアマネージャー
- SEZに焦点を絞って発言したい。1990年に始まった体制転換により,多くの国営企業が倒産,未曾有の経済困難に陥る中,1994年に地方経済を救済する目的でSEZ法が制定された。ポーランド政府の産業政策の中で一大画期を成した出来事で,EUの地域政策の精神を先取りするものであった。
- SEZでの法人税免除は重要な投資インセンティブであり,経済省が提唱しているSEZの2026年末までの延長を強く支持したい。
- 投資家はSEZに進出する際に,最低雇用創出数および最低投資額をコミットさせられる仕組みとなっている。しかしながら,SEZ法が制定されてから20年弱の年月が流れ,世界経済のグローバル化は進行した。とりわけ,製造業においては,先行きの見通しを立てる事がより困難になっている。そのような中,長期間にわたって雇用者数の維持をコミットする事がいかに大変な責務であるか是非理解して欲しい。
- ましてや,SEZに進出する企業の多くは資本集約性が高く,元来,労働節約的な性質を帯びている。更なる新規投資を呼び込むためには,投資インセンティブ享受の条件として,新規雇用創出ではない新たなメルクマールの策定が喫緊に求められているのではないか。
- 更に,2008年2月を境に,それ以降に経済特区でのパーミットを取得した企業に対しては,然るべき事由がある場合,コミットした雇用創出数を20%を上限に削減する事が認められている一方,2008年2月以前に進出した投資家にはこれが認められていない事態も憂慮される。2008年2月以前に進出した投資家にも,早急に雇用創出コミットメント数の削減許容条項を拡大適用すべき。
- SEZでは,基本的に繰越欠損金制度が認められていない事も問題。SEZに進出する日系製造業の投資は資本集約性が非常に高い傾向にあるので,操業初期には多額に上る損失を計上する事も多々ある。
- キ ポーランドへは今後とも必ず日本企業による投資が来る。投資の受け皿としてのSEZの重要性は不変である。ポーランド政府には,更なる外資誘致政策の充実を是非図って頂きたい。
(5)ヤンコヴィアク(Mr. Janusz Jankowiak)ポーランドビジネス協議会チーフ・エコノミスト
- 労働コストやSEZという安定的でない要因が,アジア企業,とりわけ日本企業にとってのポーランド市場の最大の魅力となっている事実に不安を覚える。ポーランドの労働者の賃金は上昇しており,SEZは欧州委員会との交渉がより一層困難となっている。ポーランドは,イノベーションを進めるとともに,労働者の質を高めていくことが重要である。一方,ポーランドにとって幸いにも最も安定的な要因は,ドイツ市場への近接性という点である。
- 日本とポーランドの間の貿易額は極めて低く,2011年にポーランドの対日輸出は6億2千8百万ドルで,うち機械が1億ドル以上であり,この他タバコや肉類が多い。他方,日本からの輸入は20億ドルで,カメラが37%,機械が27%,自動車関連が18%となっている。2011年のポーランドの輸出の26%はドイツ向けであり,ポーランドはEU域外の国々への輸出を拡大するなど,貿易の多様化が必要である。
(1)パネリスト
(ポーランド側)
- ボサック(Prof. Jan Bossak)ポーランド日本経済委員会副委員長
- ウィジュヴァ(Mr.Marek Łyżwa)PAIiIZ理事
(商工会側)
- 神原NSKヨーロッパ社ワルシャワ連絡事務所(NSK Europe Ltd. Warsaw Liaison Office)GM
- 岡田・伊藤忠商事社ポーランド支店(ITOCHU CORPORATION (Spółka Akcyjna) Oddzał w Polsce)GM
- 志牟田ジェトロ・ワルシャワ事務所長
(2)ボサック(Prof. Jan Bossak)ポーランド日本経済委員会副委員長,ワルシャワ経済大学教授
- 日本の対ポーランド投資は主に製造業によるものであるが,世界的には日本からの投資は金融部門や資本部門への投資もより多く行われている。ポーランドにおける日本からの投資も変わっていくべきであり,より高度なプロジェクトでの投資が望まれる。ポーランドが資本集約的なプロジェクトを呼び込むには,インフラやエネルギー等の面で多くの課題があるが,より高いレベルでの解決に向けた議論が必要である。日本とEUとのEPAが成功を収めることになれば,SEZにおける製造業の投資だけでなく,より大規模なプロジェクトへの資本投資の関心も高まっていくのではないか。
- 再生可能エネルギーの導入や,温室効果ガスの排出削減といったEUの新たな要請は,米国やドイツといった国々とも協力しつつ,日本企業がポーランドにおいて新たな技術を導入する刺激となるのではないか。シェールガス開発や原子力エネルギー等のエネルギー分野でのビジネスにその可能性がある。
- 人材について,ポーランドは中国,インド,ベトナムといった国々,更にはブルガリアやルーマニアといった国々とも安価な労働力という点で競争すべきではない。寧ろ,人材の質の高さ,製造される製品の品質の高さが,投資家の関心を引き付けると考える。
- ポーランドは日本の技術やノウハウをより積極的に活用すべきであり,ポーランドの高等教育機関との協力を日本側に働きかけるべきである。資金面での協力を求めるのではなく,相互の知見の交換,共同研究等を行うべきである。(関連して,マイマンPAIiIZ総裁から,クリスタル・パーク進出企業が地域の大学と協力することなどを期待する旨発言。)
- ワルシャワと東京とを結ぶ直航便の開設が計画されており,確実に両国の経済関係の更なる発展に寄与することが見込まれるものの,暫くの間ポーランドは既に欧州に進出している日系企業によるポーランドへの投資誘致に集中すべきである。
(3)ウィジュヴァ(Mr. Marek Łyżwa)PAIiIZ理事
- 日本はポーランドにとって最大の直接投資国の一つであるだけでなく,信頼できる,勤勉な国でもある。研究開発,自動車,航空,電機・電子,通信,環境,省エネ,原子力やクリーン・コール等のエネルギー分野での投資が見込まれ,また,期待したい。
- また,バルカン諸国等の他の市場に,日本とポーランドの企業が協力して進出することが期待される。
(4)神原NSKヨーロッパ社ワルシャワ連絡事務所(NSK Europe Ltd. Warsaw Liaison Office)ジェネラル・マネージャー
- 道路インフラの整備が非常に悪い。アンケートでは日本の投資家は改善していると評価しているようだが,私のように長期間ポーランドで滞在する者には時間がかかりすぎであると感じる。2005年には高速道路網は完成すると伝えられていたが,この期限がサッカー欧州選手権まで伸び,それでも未だに完成に至っていない。現在のワルシャワ―カトヴィッツェの道路状況も酷いもので,160kmの距離を走行するのに3時間もかかっている。もっとスピード感をもって,迅速に取り組んでいただきたい。
- ワークパーミットや居住許可証の発行などでも,期間が地域によって一年,二年と統一されておらず,基準がないように思える。このようなことは整合性をもってやっていって欲しい。投資家は細かいことがどうなっているか注目するものである。進出を検討している企業にポーランドの投資環境がどうかと問われれば,このような細かい問題を紹介してしまうことになる。
- 日本の企業を誘致するには,熱意をもって投資家トップを誘致するという基本的なことが不可欠である。誘致する側の熱意,加えて,投資家トップがその国や人を”気に入る”ということが投資決定を左右する要素になることが多い。
(5)岡田・伊藤忠商事社ポーランド支店(ITOCHU CORPORATION (Spółka Akcyjna) Oddzał w Polsce)ジェネラル・マネージャー
- 日本で勤務していた頃「日本或いはアジアから見て,欧州マーケットに焦点を当て投資をする時,どの国を選ぶべきか」と顧客から聞かれたことがしばしばあったが,「安い労働力目当てならルーマニア,ブルガリア,総合力であればポーランド,中近東マーケットも視野に入れるならトルコ」と答えてきた。ポーランドはこれらの国との誘致競争に負けぬよう継続的に投資環境整備に取り組むべきである。
- エネルギー関連については,日本の先進的な技術はポーランドに貢献できるはず。また投資対象としても,ポーランドは(大手格付け会社3社平均の)国債格付けでA-(シングルAマイナス)を維持しており,長期投資に耐える国と評価している。
(6)志牟田ジェトロ・ワルシャワ事務所長
- 近年の日系企業のポーランドでの事業展開は,ポーランドを「EU市場向けの生産拠点」と位置付ける製造業以外にも,国内市場をターゲットにした事例や,インフラ,資源・エネルギー,環境,保険など,業種の幅も広がっている。
- また,活動形態も現地法人の設立だけではなく,企業買収や資本参加のほか,プロジェクト受注なども見られる。よって,日系企業のポーランドでの事業展開は引き続き活発で,かつ多様化が進んでいると認識している。
パネル・ディスカッション1部と2部の合間に,マウェツキPAIiIZ副局長から,PAIiIZが関与した日本からの投資(2002年~2012年)について,金額ベースでは日本からの投資が世界第1位であるなど概要説明がありました。
説明資料はこちら
(1)マイマンPAIiIZ総裁
- 今回のセミナーでは,体制転換期とは異なる,ポーランドの投資環境の現状を示すことができたのではないか。ポーランドの人材の質は大きく変貌しており,単純生産はより発展の遅れた国で行われるようになっている。ポーランドの欧州における役割も変化しており,より質の高い投資が期待されている。イ ポーランドと日本の経済関係を維持・発展させていくためには,更に意見交換を行っていくことが必要である。ポーランドの投資環境に対するニーズや提案について意見交換すべく,日系企業はPAIiIZを招待して欲しい。また,エネルギー分野等のポーランドのインフラ・プロジェクトへの日系企業による投資を期待したい。
(2)大石商工会長
- 本日はこのような機会を持つことができ,各方面より貴重なご意見を頂戴できたことに感謝申し上げたい。また,日系企業,特に,製造業が抱えている課題を理解頂けたのではないか。
- 今後も,この様な機会を得て,双方向の対話を通じて相互理解を更に深めつつ,課題の解決により,WIN-WINの関係の更なる深化と持続可能な社会の構築が実現することを望んでいる。今後ともどうぞよろしくお願いしたい。